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1、31970年代を境に日米の資本コストが逆転これに代わって、1970年代以降のわが国企業の国際競争力を支えたのが「安い資本コスト」であった。
戦後、日本が再出発したとき、欧米諸国、特にアメリカと比べたとき、著しい資本不足国であった。 また、そのもとで高成長を続けたため、インフレ率も高かった。

表231に示されるように、195060年代を通してアメリカが低インフ表231日米のマクロ金融指標の長期比較レ、低金利、高株価国であったのに対して、わが国は高インフレ、高金利、低株価国であった。 戦後復興期から高度成長期にかけて、わが国はいわゆる「低金利政策」を採用したが、それは決して低い資本コストを国際競争上の武器に使おうとしたのではない。
むしろわが国企業が欧米諸国に比べて、資本コスト上不利にならないための受け身の政策であった。 つまり、わが国は70年頃までは、明らかに「高資本コスト」国だ、ったのである。
このような金融・企業財務面の国際競争上の条件は、1970年代を通じて大きく変化した。 二度のオイルショックを経て、アメリカが高インフレ、高金利、低株価(収益率)国になったのと入れ替わるように、わが国は低インフレ、低金利、高株価(収益率)国になったのである。
こうして生じた日米聞の大きな「資本コスト」の差によって、1980年代にはわが国の大企業は強い国際競争力を発揮し、わが国は恒常的な国際収支黒字国となり、世界第二の経済大国、世界ーの債権国になったのである。 日目国際競争の手段としての「低収益戦略」2、1日米大企業の収益性比較。
資本コストの国際比較を考える出発点として、第章の図12で紹介した主要因の収益性比較が参考になるだろう。 JOE(株主資本利益率)は、企業の価値創造のパフォーマンスを測る代表的な指標である。
同図によれば、わが国大企業のJOEは過去20年間一貫して低下を続け、今では並はず、れて低い水準に落ち込んで、いる。 もちろん、これらの財務データでは各国のインフレ、金利水準や税率の違い、あるいは会計慣行や平均的な資本構成の違いなどは一切考慮されていない。
そこで日米に的を絞って、日本企業の国際競争力の強さが目立った1980年代を対象に、もう少しこの問題を掘り下げてみたのが表232である。 ここで取り上げているのは、アメリカについてはS&P工業株指数の構成会社(約400杜)、日本についてはN証券金融研究所が作成している350社(製造業・商業)指数の対象企業で、いずれも80年代の平均値である。
まず、売上税引利益率でみると、アメリカが4、5%であるのに対して日本は、3%にすぎなかった。 著しく低い総合商社10社を除くと、売上税引利益率は2、8個別事業の資本コスト。
3、()内は総合商社を除いた数値。 2、2%になった。

本の企業が非常に低収益率であるという姿は変わらない。 次に、税率の差を取り除くために売上税引前利益率の平均でみると、アメリカの8%に対して日本は2、8%と、日米の格差はほとんど縮まらない。
また、日本の大企業は最近株主資本を急速に増加させてきたが、依然としてアメリカに比べると負債依存度が高かった。 そこで資本構成の差の影響を除去するために、売上営業利益率でみると、アメリカの9、8%に対して日本は3、2%と、ギャップはいっそう拡大する。
最後に、日本では金融機関や他の大株主と企業の関係が密接であったから、必ずしも高い利益率を表に出さなくても優良企業として評価されたため、本当の収益力は公表数値より相当高いと、よく主張された。 むしろ優良企業ほど公表利益を控え目に計上して、設備投資や研究開発投資など、将来に備えた支出を積極的におこなうため、表面的な利益数字は低くみえるというわけである。
そこで、営業利益に減価償却費を加えた額の売り上げに占める割合を比較してみたが、アメリカの13、5%に対して日本は5%にすぎなかった。 このように、少なくとも外部から容易におこなえるいろいろな調整を施しでも、日本企業が非常に低収益であったという結論は変わらない。
次に、JOEを比べてみると、アメリカの13、9%に対して日本は8、5%であった。 株主資本に対する税引前利益の割合でみても、アメリカの24、5%に対して日本は3分の2の18、2%にすぎなかった。
これは1980年代の実績の平均値であるが、かりにこれを一流の公開大企業として事業を続けていくために維持しなければならない最低の必要収益率(資本コスト)のメドとするならば、日本の大企業にとっての税引前の株主資本コストは、アメリカ企業の約3分の2程度であったことになる。 2、2共分散と相関係数。

ミクロ資本主義のもとでは、企業評価の第一義的な基準として、株主資本に対するリターンが強調される。 市場競争で生き残るためのゲームのルールが、調達した資本のコストを上回るリターンをあげ続けることにあるとすれば、資本コストが低いほど競争上有利になるのはいうまでもない。
しかし、アメリカの企業経営者からみれば、市場で成立する資本コストはいわば与件であり、それをベースにして調達した資本を経営活動に投入して、どれだけ増やすことができるかが評価の基準となる。 したがって、どの企業経営者もより高いリターンを目標とするのは当然である。
ミクロ資本主義のもう1つの基本ルールは、市場がオープンで十分に競争がおこなわれている限り、リスクをとらずに平均以上の高いリターンをあげ続けるのは不可能だということである。 もしそういう事業機会が存在すれば、誰もがそこに参入し、遠からずリターンは平均並みに低下するからである。
このため、高いリターンを指向することは、裏返せば高いリスクをとることと不可分である。 結果的にミクロ資本主義のもとでは、ハイリスク・ハイリターン経営を奨励する強いバイアスが働くといえよう。
アメリカ企業の多くが、かなりのリスクを負ってもユニークな戦略、ユニークな商品を追求し、改良型の技術や商品ではなく、画期的な技術や商品の開発を強調するのはこのためだと考えられる。 しかし、もし資本コストをアメリカ型市場で成立するものよりシステマティックに、長期にわたり低下させることが可能になった場合の競争戦略は、上記のようなアメリカ型とは大きく異なったものになる。
そこでまず、表232でみたような日米大企業の必要収益率の差が永続した場合、どのような競争上の違いを生むかを具体的に考えてみよう。 図232は表232で示された実績値にもとづいて、それを試算したものである。
ここでは、日米大企業が置かれた財務的な違いを前提として、100円の新規の設備投資をおこなった場合、株主および負債提供者に対して現状維持のリターンをもたらすために、税引前・金利支払前で最低何円の利益をあげなければならないかを比較している。 表232の実績値以外にここで新たに仮定したのは、1980年代の日米聞の若干の金利差を考慮して、負債の金利を日本の7%に対してアメリカは8%としたこと、および単純化のために、この新規投資の売上回転率を年1固としたことである。

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